すみません、大した秘密でもないのにひっぱってしまって…。
今日ぐらいで終わらせたいと思います…。

その後Sとはしばらく顔を合わせることはありませんでした。

私は小学校からのガールフレンド(というには淡すぎるのですが)のTさんとSとの間で悩むようになりました。
Tさんとは何もありませんでしたが、夕暮れの音楽室で茜色の光に照らされながら歌う彼女のほんのり紅の差した頬に浮かぶ産毛は、
幼い私の心にさえ染み入るような美しさで、思わず見とれてしまったことを覚えています。
ですが彼女から大きなハートが描かれた年賀状を受け取って以来、どうしていいかもわからないまま卒業してしまいました。

男子校ですからTさんとはもうずいぶん疎遠です。一方、Sの姿は校舎内で時々見かけました。
いや、目が勝手に見つけていた、と言ったほうが正確かもしれません。
いつしか私は、ガールフレンドのTさんよりもSの方に強い好意を抱くようになっていました。
いや、好意というよりももっと、情欲、という言葉に近い感情だったかもしれません。

ある日の練習中、私がSの姿を目で追っていると、妙なことに気がつきました。
隣のパートの2年のOも、私と同じ方角をじっと見ているのです。Sだ、と直感しました。
そしてOは、なにかにつけてSにちょっかいを出していました。
それはもう私の目から見てみっともないくらいに。
そんなに気を惹きたいのか、と思わずにいられませんでした。
そして想像通りOはSから軽くいなされていました。
Oはとても「いいやつ」でしたが、この時ばかりは目障りなやつでした。

ところで、そのOと同じパートの1年のCが、Sと同じ附属小学校の卒業生でした。
そこで私は適当な理由をつけてCに卒業アルバムを借り、家に持ち帰りました。
実は私も同じ小学校の卒業生でしたからあまり不自然な行為ではなかったのです。

当時はコピー機を10円で手軽に使えるような時代ではありませんでしたから、
私は自分の一眼レフを三脚に固定し、Sが載っているページをすべて撮影しました。
同じ小学校出身ながら、小学生時代のSのことは私の記憶には一切ありませんでした。
かと言ってCに根掘り葉掘り聞く勇気もありませんでした。
ですから、あとはもう想像に頼るしかありませんでした。

アルバムの中で無邪気に笑っているSの顔はとてもあどけなく、ぷくぷくと微笑ましいものでした。
私は撮った何枚もの写真をこっそりDPEに出してプリントしました。
そして小さな写真の中で微笑んでいる、私だけのものになったSの輪郭を指でなぞってみました。
あのやわらかな感触が蘇るような気がしました。

それからと言うものSはしばしば私の夢に現れました。
そしてできうる限りの表面積と圧力で浅黒い固めの私の皮膚と、
彼の柔らかく白い肌とを隙間なく密着させるのです。
私の二本の腕でしっかりとSを抱きしめるのです。
するととても甘い味と陶酔感を感じました。

激しい衝突もなく荒々しい摩擦運動もない、
静かでやさしい抱擁でした。

そして夢での交歓があった朝は必ずと言っていいほど、
両親に内緒でこっそりと下着を洗濯しなければなりませんでした。
それは夢の中のあまい陶酔感と正反対の、
青臭いにおいを放つ惨めな行為でした。

Sが練習にあまり顔を見せなくなってからもときどき、学校のそばの本屋でSの姿を見かけることがありました。
まれにSは、私が立ち読みしている姿を認めると
「なに読んでるの」といつの間にかすぐ隣にやってきて、からだをぴったりと密着させるのです。

そういうときは不本意にも勃起してしまいました。
声を聞くだけでもどきどきしました。
顔を見ただけでも言葉が詰まりました。

やっとの思いで立ち読みしていた本の題名を言うと「ふうん」と興味なさそうに目をそらし、ふらふら出ていってしまいました。

その後、高校に進学した私は吹奏楽部も辞め、Sとはますます疎遠になりました。

それに、共通点の少ない男同士が必要以上に親しくすることに
私の理性が強い抵抗感を覚えはじめていたので、努めて接触しないように意識していました。
そもそも校舎が違いますから、私が心配するまでもなく、ばったり出会うこともまずありませんでした。

でもほんとうはもっと一緒に過ごしたかった。
合宿で同じ布団で寝たかった。
一緒に風呂に入って洗いっこしたかった。
もっと、くっついていたかった…。
あのほんのり甘い、湿ったぬくもりを近くで感じていたかった…。
でももうどれも永遠に叶わないだろうことはわかっていました。

しばらくして彼には親しい友人ができ、その影響で柔道部に入ったらしいと風の噂に聞きました。
柔道部と聞いて私はなんだか少しがっかりして、徐々に興味を失っていったような気がします。

そして私は高校3年生になり、進学校だったこともあって受験という大きな流れに飲み込まれてしまいました。

なぜSがあの時期、私に対してああいう行動をとったのかは結局わからずじまいでした。
ただのきまぐれだったのでしょうか。

その後、Sの進路は卒業生名簿を見ても空白のままで消息不明です。

これら一連の出来事はリアルな性的陶酔を伴った、きわめて初期の官能的な体験として、生身の女性と関係を結ぶようになってからも記憶の底に沈殿したまま、今でもときどき私にSを探させようとするのです。

結局私はゲイではありませんでした。
ああいう感情を持つに至った同性は、後にも先にもSだけです。

以上です。
全部書いたことでなんかケリがついたような気がします…。

長期にわたる連投、お目汚しいたしました…。