売れないウリセン
ウリセンの事務所というのは、どこも大抵昼の12時くらいから、夜の12時くらいまで営業している。ボーイはその中で出勤できる日を提出し、シフトを組む。例えば俺の場合、月~金の昼間は別の仕事をしているので、夜の出勤が多い。
月~金…18:00~24:00
土・日…12:00~泊り
というような勤務形態が多かった。兼業でなく、専業のボーイとなると、営業時間のほとんどを待機所で過ごし、しかも家が店で用意された寮だったりする。
しかし俺が勤める店は、どうやら店長自体が本業でなく兼業なので、本業の子は雇っていないし、待機所が存在しなかった。いま思えば、その気楽さが好きだった。
というわけで、シフトの時間は家で待機状態となる。
(いつ電話が来てもいいように、髪の毛くらいは整えておくべきだろうか)
(だとしたら洋服も……? どこまで備えておけばいいのやら)
サイトに写真が掲載されてから、俺はトイレに行くときも、風呂に行くときも携帯を持って移動した。いつ出勤の電話が来てもいいように。
しかし。
「ぜんぜん電話、来ねぇーっ!」
そう。ウリセンというのは、入ったからって仕事がポンポン来るというものではなかったのだ。土曜日は終日OKです、と言っても指名がなければ何もない日として終わる。シフトはあくまでも空き時間を提出するだけであって、その時間を埋めてくれるものではない。
売れっ子になれば一日に5人指名という強者もいるという話だが、いわゆる「普通の男の子」である俺がそこまで売れるはずもない(そもそも28歳では男の子ですらない)。
「思ったよりシビアな世界なんだなあ。そういえば、昔はどんな子でも売れたけど、いまは不況だから違うって言ってたな」
売れない、という事実は俺をひどく落ち込ませた。稼げないというよりも、自分に商品価値がないという事実。承認欲求は満たされるどころか、渇望していく一方だ。
この時俺は、数年勤めていた編集プロダクションを辞めて、編プロ時代のコネでライターや編集の仕事を家でしていた。なので厳密に言うと平日の昼間にシフトを出すこともできたのだが、そこまで本気になるのも嫌で、シフトの時間は他の子よりも少なかった。それが原因でもあるのだが、売れないというのはまごうことなき事実だ。
そんなものかと諦めかけていると、数日後の夜、ようやく店からの着信があった。