初めてのウリセン一夜 2
「はじめまして。アツヤです。よろしくお願いします」
そう言ってお客様をまずはソファに座らせる。
(えっと、何するんだっけ。まずは上着をハンガーにかけてあげて、灰皿と飲み物を出さなきゃ……っと、その前にまずは店に電話だ)
「じゃあ、ちょっと店のほうに電話しますね」
携帯を手に取り、店に電話をする。出たのは店長だった。お客様が来られたのでこれから始めます、と伝える。はーい、頑張って、と気楽に返される。
「いまウーロン茶出しますね」
「あ。ワイン持ってきたんだ。よかったら一緒に飲もうよ。それと……今日のぶんね」
お札を受け取り、さっそく財布に入れながら思い出す。確か、お客様の持参した飲食物には手を出してはいけないはずだ(リピーターの方は可)。
でも、ここで断るほうが失礼かもしれない。
「じゃあ、乾杯しましょうか」
ワインを入れたグラスを軽くぶつけて、長い夜が始まった。
初めてのお客様、吉田さんは38歳のサラリーマン。中肉中背でどこにでもいそうな普通の見た目なだけに、どうしてウリセンを利用するのかが気になる。男の相手に困ることはないだろうし、ただヤりたいだけならハッテン場もあるだろう。
お金で自分を売る、という気持ちは自分のことだからよくわかる。
しかし、お金で他人を買う、という気持ちは正直よくわからない。
そこら辺を聞いてみたかったが、初めてなだけにどこまで突っ込んでいいのかわからない。とりあえず、人並み以上に稼いでいるのは伝わってくるので、金銭的に余裕があるのだろうという結論にしておいた。
それから他愛もない話を続けて、俺たちはお互いを伝え合う。
「にしても接客がうまいね。本当に今日が初めて?」
「本当ですよ! うまいって……そうですかね?」
そう言われたのはこれが最初で最後だったのだが、年の功のせいだろうか。しかし、吉田さんも話がとてもうまい。ただの雑談でもいちいち納得させられる。
「家はいろんな人が呼べるような場所や間取りにしたほうがいいよ。人の力が家に巡って、自分にいいことが返ってくるからね」
「はぁ~、なるほどー。ちょっと携帯にメモさせてもらっていいですか」
こうやって文字になると陳腐かもしれないが、話として聞くと、妙に発言に力がある。
見た目は悪くないし、仕事もちゃんとしていて話もうまい。結構モテるのでは、というか、迫られたら断れないどころか、喜んでOKしてしまいそうな人だ。
(こうやってウリセンで遊ぶのも、紳士の嗜みってヤツなのかね)
そんなことを思っていると、吉田さんがつぶやく。
「じゃあ、そろそろ」
そうだった。話して終わるだけの仕事ではないのだから。