諸住さんからの指名はもう来ないだろう、と思っていたものの、三度目の指名は一週間後に来た。しかも、それからは週に数回は指名してくれるようになり、完全な常連さんとなった。
「どーしたんだよアツヤ。あの客に指名されるなんて凄いじゃん」
マネージャーはそう言ってくれるが、その理由は俺にもわからない。おかげでどうやら指名のビリからは脱却したようで、マネージャーから指名を増やすように言われることはなくなった。
しかし、することと言えば相変わらず家や居酒屋で雑談をするだけで、指一本触れられることはなかった。
(指名はありがたいことだけど……セックスしなかったら、俺の体っていったい何なんだろう)
話すだけでお金がもらえてラッキー、とは思えず、自分の体が性的に価値があるのかということに再び悩まされ、あまりいい気分ではなかった。
諸住さんの話は、金持ちしか知らないような世界が見えてきて、確かに楽しい。でも、普通の人間の俺と話していて楽しいのだろうか? と不安にもなる。
一度だけ、話していて褒められたことがある。
「おまえは話を聞くのだけは上手いからな。そこだけは取り柄なんじゃないの」
「はぁ、そうなんですかねぇ……」
初めてのお客様の時にも言われたが、聞くのが上手いと言われても、ただ聞いているだけだからよくわからない。店のホームページに「聞き上手なアツヤくんです!」なんて書かれたってアピールにもならないだろう。
とりあえず、唯一褒められたことだから、それは信じておくことにした。
それからも驚くことは続き、以前の店でのお客さんが来てくれるようになった。
「アツヤくんいきなり店のサイトから消えてたからびっくりしたよ。ココに移転してたんだね。言ってくれればよかったのに」
と言っても、連絡先を知っているお客さんはほとんどいないから伝えようがなかった。しかも普通なら『○○くんは今月で卒業です! 最後のご予約はお早めに!』なんて辞めることをアナウンスしてくれるのだが、俺にはそういうこともなかった。お客さんにとっては、夜逃げ同然だったのだろう。
そんなわけで、閑古鳥だった俺にも、ようやく風向きが変わってきた。