ED治療後のウリセン
ウリセンはホテルに出張の場合、フロントは基本的に何食わぬ顔で通過し、エレベータに乗る。しかしセキュリティ管理で入れないホテルもあり、そういう時は一度お客様に電話をしなくてはいけない。
その日の指名は、仙台からのリピーター、上杉さんだった。
『ホテルの入口まで来たらお客様に電話をしてください。電話番号は090…』、と店からのメールに上杉さんの携帯番号が書いてある。
そのホテルはマンションのようになっていて、カードを差し込まないと入れないようになっていた。早速、上杉さんへ電話をする。
何気ない電話だったが、お客様の番号を知ったのは上杉さんが最初で最後だった。この時番号を知らなかったら、縁は切れて長いつきあいにはならなかっただろう。
上杉さんに入口まで来てもらい部屋にたどり着くと、いつものように「ほんっとにおめーは綺麗だ」と褒めてくる。こんなに褒めてくれる彼氏がいれば……と思うが、イケてる人ほど人を褒めないものだ。
「そういえば、いま、治療をしててな」
ベッドにふたりで座り、上杉さんが言い出す。
「EDってわかるか? 勃起治療ってやつやってんだ」
EDとは勃起不全のことで、上杉さんは震災の3月11日以来、勃起しなくなってしまった。ひとりでオナニーする時は勃起するようだが、俺といるときはすぐに萎えてしまう。
「それで病院行って薬もらったりしてるからさ。今日はできるかもしんねぇ」
「本当ですか? じゃあ早速」
ゆっくりと上杉さんを愛撫して、フェラをする。白髪混じりの陰毛を見るたびに、無理なんじゃないかと思う。しゃぶり続けると何とか硬くなるものの、ここまではいつもと一緒だ。
しかし、ローションとゴムをつけても今日は硬いままだ。入るかもしれない。
いつものように騎乗位になって、俺が上から操作する。
「上杉さん、勃ってますよ。これなら入るかも」
ゆっくりとアナルにあてがい、少しずつ入れていく。まずは亀頭の部分が入る。
「あ、入った! わかります? ほら。入ってる」
上杉さんに肛門付近を触らせ、ちゃんと入っているのをわからせる。
「おぉ~、本当だ。ははっ、入ってる」
「気持ちいいですか?」
俺は腰を振って刺激を与えてみる。
「うーん、気持ちいいようなよくないような……よくわがんね」
気持ちよくならなくては意味がない。体位を変えてみようかと試行錯誤していると、明らかに柔らかくなってくるのがわかる。
一回ズルリと抜けてしまうと、完全に萎えている。これではもう入らない。
「うーん、今日も無理そうだな。アッちゃん、手でイかせてくれっか?」
「せっかく入ったのに……でも、繋がれてよかったですね」
結局、いつものように手でイって終わる。入ったからよかったねと俺は何度も言うが、その感覚もあまりなく、満足度は低いようだ。
「アッちゃん、仕事はうまくいってんのか?」
二人とも服を着て、私生活の話をする。上杉さんには俺がフリーランスでライターをやっていることを伝えていた。
「そうですね。こういうバイトしながらですけど、なんとか」
一応ライター業だけで生活はできていたが、不安定な職業なのでウリセンのバイトもしているということにしていた。興味本位でウリセンをやってみた、とはまさか言えない。
「そっかー。何もしてやれなくてごめんな。俺もお金がそんなに無くて」
「そんな。こうして来てもらってるだけでありがたいですよ」
「あと数年で退職金出るから、それまでは……」
「いやいやいや、何言ってるんですか!」
退職金、という生々しい単語に俺はたじろいでしまう。別にお金を引き出そうとしているわけではないのに。 でも、ウリセンをやっている以上は、お金で繋がれているのも事実だ。もしお金なしで会ってくれ、ヤらせてくれ、と言われたら俺は断るだろう。
震災でEDになった人を救いたい、という気持ちはあるのに、お金がないと動かない、という自分に自己嫌悪する。
(どんな職業でもそうだけど、客と店のつきあいって難しいなあ)
割り切った思いと、割り切れない思いが交差する。
その思いがどう続いていくかはわからなかったが、上杉さんとの関係は続いていくのだった。