いろいろ考えた結果、マネージャーに店を辞めることを伝えた。もちろん引き止められることもなく、それじゃあということで以前の店同様、あっさりとした最後となった。
これで完全にウリセンを卒業したことになった。
いちおう今月いっぱいと伝えたが、既にもう月末で指名が入ることもないだろう。感動的な幕引きが一切ない辺り、俺らしい。辞めたら辞めたで特に未練もない。
振り返ると、嫌なことや辛いことのなかった仕事だった。そりゃ大して指名も入らず本腰入れる必要がなかったからでもあるけど、それで高いお金が貰えてしまうのも何だか不思議な話だ。
よく、好きでもない人とセックスするのは嫌ではないのかと聞かれるが、嫌悪感はまったくなかった。仕事と思うと、そんなことを考えている場合じゃないし、ただの作業だから他のアルバイトと一緒だ。むしろ、お客様は少なからず好意を持って指名してくれるだけに、バイトによくある対人関係のストレスがないのがよかった。
あえて言うなら、ラクすぎるのが問題だろう。よく女性の風俗嬢が、金銭感覚が狂ってしまうと言うが、労働量と賃金のバランスを考えると、そうもなるはずだ。
俺はいいのか悪いのか、指名が少なかったから金銭感覚が狂うことはなかった。でも、就職せずにウリセン一本で働いていたらと思うと、恐いものがある。
なぜこんな高いお金で需要と供給が成り立つかというと、若さと美しさを売っているからなのだと、俺は体を使って実感した。そればっかりはお金で買えないからこそ、高いお金を出すのだと。ただ、それは一生続くものではないから、どこかで幕を引かなくてはいけない。
(これからはもう、俺の体に誰もお金を払わないんだよな)
寂しい気もするが、いざ辞めると、そっちの方が当たり前ということに気付く。
自分が性の市場でいくらか通用して、お金を出してくれる人がいた。その経験で充分だ。
自分の性はいつまでもお金にならないから、別の価値を見つけなくてはいけない。そう言い聞かせる。
これで俺のウリセンは終了した。
しかし、別の形で話は続いていくことになるのだった。