指名がどんどん増えてくると、店側が後押しをしてくれるようになった。ホームページの目立つ位置に載せてくれたり、お客さんを優先的に回してくれたりと、人気のある子という扱いをしてくれる。
(何だよー、自分のウリを考えろとか言いつつ、結局は店側のプッシュが影響するじゃーん)
……とも思ったが、いざ指名が増えると、ありがたいという感謝の気持ちが強くなる。
週に何度も指名してくれる諸住さん、以前の店のお客さんたち、そしてサイトを見てくれた新規のお客さん。俺は休むヒマもなく体を売り続け、この時は完全にウリセンが本業となってしまった。
そして、この月は本当のナンバー2まで登り詰めたのだった。
……という展開ならドラマチックなのだが、実際は4番目になったよとマネージャーが教えてくれた。確かナンバー3まではボーナスが少し出るはずだったので、悔しい。とはいえ、専業でないのにこの成績は相当凄いと褒めてもらえた。
相変わらず待機所に行くと「あ、オバさんだ」と言ってくる子がいるが、「オバさんでごめんね~」と余裕の笑みで返してみる。妙な自信がついたのかもしれないが、余計オバさんっぽい気もするのだった。
いつものように諸住さんの家に行くと、俺は言うべきか否かを考えた。
『本当はナンバー2なんて嘘でビリだったけど、おかげ様でナンバー4になりました』と。
このまま嘘をつき続けても何ら問題はないが、本当の自分を伝えたくなる。しばらく悩んでいたものの、話すことがなくなってきたので俺は伝えることにした。
「あの、実は本当のことを言おうと思って」
恐る恐る俺が言うと、「はぁ、何?」とぶっきらぼうに諸住さんが尋ねる。
「実は初めてお会いした時、僕がナンバー2だと伝えたんですけど、あれ、嘘だったんです。ごめんなさい。でも、こうやって諸住さんが指名してくれるようになったおかげで、4番目にまでなることができたんです」
言い終わると俺は少し後悔した。嘘なら嘘のままでよかったのではないか。それもひとつの仕事なのではないかと。相手を嫌な気持ちにさせてしまったかもしれない。
「フーン。やっぱりね。ってかどう見てもナンバー2じゃねーし。その去勢が面白かったから、別にいいよ」
いつものように諸住さんはドライな反応だった。しかし驚くのはこの後だった。
「それよりさ、他の店でいい子見つけちゃったんだよ。ホラ。カッコいいだろ~」
と言って諸住さんは自分の携帯の写メを見せてくる。そこには確かに格好いい男の子が写っている。どことなくタクマ君に似ているかもしれない。もちろん俺とは違うタイプだ。見たことのない顔だから、どこか別の店の子なのだろう。
「この前指名してみたんだけどさ、ハマりそうなんだよな~」
と言って、諸住さんは本当にその子にハマってしまった。
そして、あっさりと諸住さんの指名は途絶えてしまい、それっきりとなった。
(あれだけ何度も会っていたのに、こんなあっさり関係が終わるなんて。俺が嘘をついていたのをバラしたせい? でもどっちにしろ新しい子にはハマってただろうしな。それまでの繋ぎだったのかな)
少しは心が通じ合う瞬間もあった……というのは俺の思い込みだったのだろうか。お金を貰っておきながらそんなことを言える立場ではないのだけど。短い間だったが、最後まで掴みどころのない人だった。
それからは、あっという間にまた売れないウリセンとなってしまった。前の店から来てくれたお客さんも、来てくれたのは最初の数回で、新規のお客さんもどんどん減ってくる。こんなにも一瞬で境遇は変わってしまうとは。
どうしよう。また底辺から頑張るべきか。いや、違うだろう。たまたま一瞬運がよかっただけで、いつかはまたこうなっていたはずだ。
だとしたら……ウリセンを辞める考えに至るまで、そう時間はかからなかった。