体の相性が悪い
さらに一ヶ月後、ヒデくんはまた指名してくれた。
事前にメールで数日後の指名とわかっていたので、遅い誕生日プレゼントを用意した。
「はい。コレ誕生日プレゼント。一ヶ月遅いけど」
「本当に? 嬉しいな~!」
そんなに高くもないアクセサリーだが、喜んでもらえてほっとする。
今回は一晩で二発ヤりたいということで、早めに一発イって、しばらくはいつものように長話をしていた。
俺は、どうしても気になっていたことを聞いてみた。
「あのさ、毎月来てくれるのはとても嬉しいんだけど……正直、お金は大丈夫?」
余計なお世話かもしれないが、まだ若いし、羽振りがいいとは限らない。
「う~ん、けっこうカツカツだけどね。でもアツヤくんに会いたいし」
また、胸が痛くなる。自分にお金という数字で価値がわかるのは嬉しいけど、それは誰かが働いて稼いだお金なのだ。
「手取りで月15万くらいなんだけど……それじゃ一人暮らしはキツいから、休みの日はバイトしてるよ」
「バイトって……」
「派遣で一日限りの交通整理とか。でも交通費出ないから、場所が群馬だったりすると遠くて大変なんだよね~」
壮絶というか何というか……どこまでも心配させてくる子だ。
「それよりさ、DVD持ってきたんだ。見ようよ」
そう言ってヒデくんは俺にDVDを渡す。松田聖子のコンサートDVDだった。
そんなに聖子に興味がない俺にとっては、とにかく睡魔の戦いだった。途中でトイレに行ったり、「フレッシュ! フレッシュ! フレーッシュ!」と合いの手を入れてみたり、意外と大変だった。
そのまた更に一ヶ月後。だいぶ慣れてきたのか、ヒデくんは長時間タチをやっても萎えることなく、しまいには駅弁までやってとことん堪能してくれた。
しかし最後、思いもよらぬ言葉を発してきた。
「アツヤくんさー……悪いけどやる気あるの?」
いつもと何ら変わらない態度で接していただけに、いきなりでびっくりした。眠いのがバレてしまったのだろうか。ずっと楽しそうだったけど、本当は不機嫌だったのだろうか。
「俺はもともとテンション高いほうじゃないし……やる気がないように見えちゃったらごめんね」
そう謝ると機嫌を取り戻してくれたが、それが最後の指名となった。いろいろ心配したわりには、あっさりとした最後だ。指名がなくなれば、他人になるのだ。
いまもバイトしながらウリセンに通っているのだろうか。たくさん友達ができていればいいな、と思う。