高級ウリセンボーイとの出会い
ウリセンでバイトしていることは数人の友人以外、基本的には秘密にしていた。ただ、ゲイの中には、実はウリセンをしているという人がたまにいて、そういう時は明かすようにしていた。
飲み会で出会った30歳のゲイもそのひとりだ。
彼はいわゆるガタイ系で、普段なら接点のないタイプだ。話を聞いてみると、全然住む世界の違うウリセンでびっくりした。
「もう30歳だからウリセンはほとんど休止状態でね。よほどいいホテルじゃないと断るようにしてるんだ。都内の高級ホテルはほとんど制覇したよ」
そんなバブルみたいなことがあるとは……俺はほとんどビジネスホテルか、店の個室だ。
正直、彼の顔はハッキリ言ってイケていない。ほうれい線が深く、30歳と言っても若作りしたオジサンにも見える。しかし話を聞いていると、セルフプロデュースが上手いということがわかった。
「洋服はちゃんと高いのを着るようにしてるよ。そういうのが喜ばれるからね」
彼の意見には説得力がある。俺はお客様のコンプレックスを刺激しないよう、できるだけ地味な服を選んでいた。しかしそれは間違いで、夢を売る商売としては着飾ったほうがよかったのだ。
見える部分だけでもTシャツとベルトとデニムがドルガバだ。背が高くガタイがいいと、とても似合っている。グッチのバッグはお客様からの貰い物だという。
(やっぱりゲイの世界は筋肉至上主義なのかな。でもそれだけじゃなさそう)
「ていうか、ウリセンやってるなら友達にもどんどん言っちゃったほうがいいよ?」
「えっ、どうして?」
体を売ることを快く思わない人もいるだろうに、そんな言っていいものなのか。
「ウリセンやってるってことで付加価値がつくから、おごってもらえたりするよ。ウリセンやってるのにわざわざ今日来てくれたんだ、じゃあ焼肉おごるよ、みたいな」
人が会うことに業種なんて関係ないのでは……と言いかけたが、やめた。確かにゲイ同士の場合、エロ関係の仕事はそのままステータスに繋がることが多い。それを侮蔑する人の大抵はただの嫉妬だから、言ってもそんなにマイナスにならないということだろう。
どうしても聞いてみたかったお金の話もこっそり聞いてみることにした。
「マックスで月100万いったこともあるよ。合間にチャットボーイもしたりね。でもほとんど親にあげちゃったかな」
何だか夢のような話だ。虚言癖かと思うくらいに。
たぶん、自分に自信がとてもあるのだろう。その自信が自己実現に繋がっていき、新たな自信を生む。文字にしたら簡単なことだが、そうそうできることではない。
結局俺は普通の人間で、予想の範囲内でしか動いてないなあなんて、少し落ち込んだりもする。
他にも景気のいい話や、凄いお客さんや、店の中でのドロドロした話など、ドラマのような話を聞くことができた。
それから彼のエピソードが聞きたくて、時々飲むようになった。どうやら人並みに出会いが欲しいらしく、飲み会には人数を多く呼ぶようにした。
しかし、常に話題の中心になろうとし、俺がスゴいスゴいと持ち上げないと話が続かないため、接待のようになってしまい次第に飲み会には呼ばなくなってしまった。
彼の店のサイトを見たら、今も在籍していた。また新しいドラマを生み出しているのだろうか。