朝になると、お互い朝起ちのままで一発ずつ出す。恋人同士のような行為だが、そこに情愛はない。だからこそやれる仕事だ。
帰り時間が近くなった時、林さんが言った。
「これから朝ごはん食べに行こうよ。お腹すいちゃった」
それって勤務時間外に会うってことだけど、いいのだろうか。まあ、食事くらいなら問題ないだろう。
そうと決まったら、林さんがいる前で部屋の掃除をして、事務所に電話をして(前回と同じく朝は誰もいないのでオーナーの携帯に転送される)、精算は次回ということを告げる。
「じゃあ行きましょうか」
2人で部屋を出て、24時間営業のファミレスへ行く。
やはり場所柄、二丁目で飲んでいたんだろうな、という客が多い。
2人ともモーニングの和食を頼むと、またもや林さんが要求してくる。
「そうだ、アツヤくん、携帯教えてよ。今度は直接会いにいくから」
それは店を通さないということか。やっぱり恋人気分を味わいたいのか、お金を使わなくて済むと思っているのか。どっちにしろ店を通さずに会うのは「ヤミケン」と言って、最大のご法度だ。
「もちろんお金は出すよ。そしたらアツヤくんの取り分が多くなるよ? それに、声が聞きたくなったら電話したいしさ」
「えー、そんなことしたら店に怒られちゃいますよ。林さん、僕の前は他の辞めちゃった子を指名してたみたいだし、急に来なくなっちゃったら不思議に思われますよ。もっと仲良くなってからでもいいじゃないですか。ね?」
上手くかわしたつもりだが、納得してくれたかどうかはわからない。どっちにしろ、俺は携帯を教える気はなかった。
「でもさ、俺はアツヤくんと長い付き合いにしていきたいと思ってるから。店の子としてじゃなくて」
面倒なことになってきた。体のやりとり以外にも仕事はあるのだなあと実感する。
「ちょっといま、携帯変える予定で、番号とかメアドも変わっちゃうかもなんで、その後でいいですか?」
適当な嘘をつくと、しぶしぶ折れてくれた。しかし大したことと思っていないのか、すぐに機嫌がよくなり、食事が終わるとファミレスの前で握手をして、別れた。
林さんとはこれでおしまいと思いきや、出張のたびに指名してくれるリピーターとなった。ヤミケンの誘いもせず、バックもせずいつも精液を飲んで、睡眠時間が長いというラクなお客様となった。テレビやネットでガンの話題を見るたびに、あの大きな傷を思い出す。元気でいてくれればと思う。