ウリセンの卒業

駅まで向かうまでの道、二丁目を歩きながら考える。辞めるなら、このまま事務所に行って話をしてくることもできる。
（何か今までとは違う、しっかりした雰囲気のところだったな。あそこなら、新しいスタートが切れるかもしれない）
　たぶん、俺は辞めたかったのだろう。そのきっかけが欲しくて、今日、背中を押してもらいに行ったのかもしれない。
　何度も行ったいつもの事務所へと向かう。いつにない緊張感が胸を駆け巡る。
　ドアを開けると、そこには店長がひとりでいた。
「おう、アツヤ。どうした？」
　いま俺が来る理由は全くないだけに、店長は不思議そうにしている。
「あの、ちょっと、お話があって」
「……何？」
「えっと、最近、本業の仕事が忙しくなってきてしまって……それで、あの、お世話になったんですけど」
　辞めさせてください、ということを言えず、俺はわざわざ周りくどい言い方をしてしまう。
「卒業ね」
　しかし、それを察した店長があっさりと言う。卒業。便利な言葉だ。でもその表現がアイドルグループの脱退みたいで、悪くないと思う。
「そうです。そういうことです。すみませんが……今月いっぱいで」
「いやいや、今までありがとうね。サイトの画像は消しておくから」
　人が辞めていくことに慣れている対応だった。いきなり去っていくことはしょっちゅうなのだろう。
「お世話になりました。それじゃ、失礼します」
　あっさりとした最後だった。そりゃそうか、大して貢献もしてなかったし。幽霊部員ならぬ、幽霊ウリセンだったもんな。
　もっとこう、喪失感があるかと思いきや、ちっとも悲しくない。悲しくないことが悲しい。自分にとってウリセンは、その程度のものだったのだ。