はじめての待機室

　それから話は向こうのペースで進んでいき、店のシステムなどを説明してくれた。ほとんど今の店と変わらないので、特に質問はなかった。
「じゃあ写真撮ってこっか。今日はカメラマンいないけど、サイトに一枚でも写真があったほうがいいでしょ」
「えっ？　あぁ、ハイ」
　もう今のところを辞めること前提で話が進んでいく。断り辛い雰囲気だったので承諾すると、部屋を出て待機室へ連れられた。
「じゃあカメラ持ってくるからここで待ってて」
　ボーイの待機室は教室くらいありそうな、とても広い部屋だった。ウリセンってこんな景気よさそうなものだったのか。
　そこには毛布を被って寝ている子もいれば、ゲームで遊んだり食事していたり、10人近い男の子がいる。さっきエレベーターで会った３人もいた。弁当を食べているから、近くの店で買いに行くところだったのだろう。
（もっとタコ部屋みたいなとこで待機するもんだとてっきり……）
一角には鏡と椅子が並んでいて、ドライヤーやヘアアイロンが置いてある。ソファの近くには雑誌や漫画が並んでいる。奥の方にはロッカーがあり、キッチンまである。
　当たり前だがみんな若く、イケている子ばかりだ。こんなに沢山いると劣等感が刺激されるが、普通の子もいたりして安心する。
（こういう現場って、初めて見るなあ）
今のところは店舗を持たないデリヘル的なところもあるから、新鮮な景色だった。
　どこにいればいいかわからず、立ちすくんでいると、社長とお茶をくれたマネージャーがカメラを持ってやってくる。
「いつもここでみんな待機してるから。アツヤくんは本業があるから使わないかもしれないけど、新宿に来てヒマになったらここで待機しててもいいし」
　と社長が言う。
　俺は壁の前に立たされ、マネージャーがいろいろとポーズを指示してくる。前髪を直したり洋服を整えたりして、ようやく一眼レフでシャッターを切る。
（写真の撮り方もけっこう本格的だなあ。これなら写真で嫌な思いしなくていいかも）
　暇そうだった何人かの子がいろいろ一緒にポーズを考えてくれたりして、雰囲気も和気あいあいとしている。まるで男子校の休み時間のようだ。
　15分くらいで撮影は終了し、また応接室へとふたりで戻る。
「それじゃあ、今度来る時はカメラマン呼んでおくから、次は本格的に撮るね。それと……ちゃんと辞めてきたら、連絡してね。じゃあ、お疲れ」
　流されるように事は進んでいき、俺は店を後にした。