プロの空気に触れて

　今までの店を卒業して、翌日新しい店の社長に辞めたことをメールする。
　じゃあ正式に入店ということで、まずは写真を撮るためにまた来てほしいとの返事が来た。
　撮影のために店へ行くと、カメラマンや他に撮る新人の子もいて、前よりも待機室は賑わっていた。照明器具もあってかなり本格的だ。俺は最後に来たため撮影も最後となり、待機時間が長くなる。
「この子全盛期は家建てる勢いだったからねー。ウチでまた一花咲かせるから、うまく撮ってね～」
　撮影に立ち会っている社長がカメラマンに言う。どうやらいま撮っている子は、他の店で相当稼いでいたようだ。確かに正統派イケメンというより、ゲイが喜びそうな良い意味での野暮ったさ、ノンケっぽさがある子だ。
　待機している子たちは照明の手伝いなどをしてキビキビと動いている。マネージャーは次に撮る子のヘアメイクをしている。
（みんなちゃんとしてるなあ。ウリセンってもっといい加減で、適当にやるもんだと思ってた……でも、本当はしっかりしてるっていうか……）
　何だろう。この感じ。俺も感じたことがあるはずだ。
　フリーライターになる前、編集プロダクションにいた時、こういう撮影に立ち会ったことがある。モデルとヘアメイクとスタイリストとディレクターと、いろんな人が一丸になって作っていく現場の空気。
（そうだ。プロなんだ。みんなプロ意識が高いんだ）
以前の店は店長自身がウリセンの経営を副業でやっていたため、本業禁止ということもあり、ゆるい雰囲気だった。でもココは、ウリセンを生業にしている子が多い。この仕事が当たり前で、ここで稼ぐぞ、という思いが強い。
（俺は、ウリセンのプロになりたいかっていうと……）
　お金より承認欲求を満たしたくて、自分を変えてみたくて、自分の価値を知りたかった。仕事というよりかは、好奇心というか実験というか、バイト感覚だ。
　もちろんバイト感覚のウリセンもいっぱいいるだろうし、バイトといえどもお客様との時間は手を抜いていない。ここにいたっていいだろう。
　でも、本気の人たちを見ていると、妙な焦りを感じてくる。
（何だか凄い世界だなあ。俺は、ここにいていいんだろうか）
　悩む間もなく、名前を呼ばれて俺が撮られる番となった。