最悪のお客様 2

　諸住さんの足が止まった。と思ったら、単なる信号待ちだった。でも、話を聞こうとしてくれている。
（やべー、思わせぶりなこと言ってみたものの……理由なんて無いっつーの！）
　タクマ君はアンタみたいな客が嫌なんだって。だからビリの俺が来ました。こんな奴じゃもう別の店にしたくなるでしょ？　そのために来たんでーす。
　……なんて言えるわけがない。
「タクマ君といろいろあったみたいだから、俺が何かできればと……」
　確かマネージャーは『本気になりすぎる人』と言っていた。ということは、諸住さんはタクマくんと会えなくて傷心なはずだ。そこにつけ込み、俺はもっともらしいことを言う。
「お前には関係ないだろ」
　しかし、バッサリと斬られる。確かにその通りだ。そもそも２人がどういう関係すら知らないのだ。
「や、でも、僕でよかったら話聞きますし。誰かに話したらラクになるかもしれませんよ」
「なーんでお前に話さなきゃいけないんだ」
　……ごもっとも。俺は何も言い返せなくなる。
　信号が青に変わり、再び諸住さんは歩き始める。そして、こう言った。
「あーあ、タクマの代わりに誰が来るかと思ったら。ココも大した店じゃねーな」
　それが独り言なのか、俺に言ったのかはわからない。ただ、その言葉に傷ついたのは事実だった。でも、これで万事解決なのだろう。諸住さんは代わりを別の店で探して、タクマくんも厄介払いができる。
　俺の役目はここまでだ。後は店にもどって、チェンジされちゃいましたって笑いながら言えばいい。マネージャーもそこら辺はわかっているのだから。
（ほんっと、俺って何なんだろーなー……）
　良いように使われるだけの情けない存在。しょうがない、もう帰ろう。諸住さんもどんどん遠ざかっていく。
　でも。
（悔しい！　ってかムカつく！　このまま終わったら立ち直れない!!）
　ここで帰ればいいものの、俺は再び諸住さんを追いかける。早足で歩きながら、何か言ってやろう、でも何を言えばいいのか、と考える。
　ただ単に悪口を言い返せばスッキリするかもしれないが、相手にダメージを与えられないかもしれない。どうせなら悔しがるくらいのことを言ってやりたい。タクマ君は俺とつきあうことになったんですよ、とか。
（そっか。何か嘘ついてやろう。どーせもう会わないんだろうし）
「すいません、ちょっと！」
　諸住さんに追いつき、再び声をかける。