最悪のお客様 3

「まだ何かあるのか？　しつこいな」
　自分でも異常なしつこさだとは思う。諸住さんは、疎ましいというよりは驚いている。
「さっきからブサイクとか最悪とか、ひどすぎませんか？」
　若干キレ気味の口調で俺は言う。
「……だって本当のことだろ。そんなこと言いに来たのか？」
　諸住さんは動じる気配がない。悔しい。何か言ってやらないと。
　タクマ君とつきあうことになった、と悔しがる嘘を言ってやろうと思ったものの、そうすると、さっき話を聞きますよと親身な立場になってしまったために辻褄があわなくなってしまう。
「ぼ、僕は」
　頭を回転させるものの、結局何もうまいこと言えそうにもない。何か、何か言わないとここで終わってしまう。
「僕は、タクマ君の次の、ナンバー２なんです！　ナンバーワンが来られないなら、２番目が来るのが当たり前でしょう。それなのに、最悪だなんて失礼ですっ！」
　とっさに出たウソが、コレだった。
　ほんの一瞬だけ間が空いて、諸住さんは唖然とするが、すぐに言った。
「お前がナンバー２？　ウソつくなよ」
　……うっ、バレてる。そりゃそうか。でも、どうせウソならと続けることにする。
「ウソなんかじゃないです。諸住さんがタイプじゃないだけの話ですよ」
「お前がかぁ？　どう見てもおかしいだろ……」
　まじまじと俺を上から下まで見回してくる。どこにナンバー２の要素があるのかを探るかのように。
「おかしいって言ったって、事実なんだからしょうがないじゃないですか」
　キレ気味だったこともあり、俺は話し方が偉そうになってくる。
「じゃあ、何でナンバー２なんだよ。お前に何があるんだよ」
「……それは」
　言葉に詰まってしまう。ああ、やっぱりマネージャーに言われた通り、自分のウリを考えておけばよかった。俺には何もない。いや、でも適当にウソついておけばいいか……って、ウソすら思いつかない……
　しばらくの沈黙の後、満面の笑みで俺は言った。
「それは、お客様が決めることですから」
　想像にお任せする、という言い方でお茶を濁す。
しかし、それが思いがけず諸住さんの興味を惹いたようだった。