パラダイス(3)
浴場を出て、俺と彼は、トランクス1枚で個室のある同じフロア(3階だったかな?)へと並んで歩いていった。
フロアに着くと、左右に分かれる感じになったが、彼が「ちょっと、部屋の中、見せてもらっていい?」って聞いてきた。寮に入ったばかりで、荷物も無く、断る理由もないので、「何もないけどね・・・。」と2人で俺の部屋に入った。
個室の中は、机とシングルベッド、1人用のロッカーと当時よくあったスチール制の本棚が備え付けてあって、細長い2~3畳くらいの狭さ。
今思うと狭くて息が詰まりそうだけど、勉強と睡眠とセンズリくらいしかしない部屋なので充分で、実家と違って鍵もあり、快適な空間だった。
彼は俺の部屋に入ると、中をぐるっと見回して、「やっぱり、俺の部屋と同じ造りだね?」と笑った。
そして「これ、何?」とまだスカスカの本棚に本屋の袋に入ったまま横向きに無造作に置いてあるモノを指さす。
俺は、『あっ!』と心の中で叫んだ。実家を離れ一人暮らしを始めるにあたり、頭の中がエロしかなかった俺は、寮に来る途中に、繁華街に立ち寄り、本屋でエロ本を買う計画を立てていて、実行したばかりだった。そして、今日の夜、寮での初夜を迎えるつもりだった。
男なので、エロ本なんか持ってて普通だけど、当時の俺は、まだ人生経験も少なく、フリーズ。絶句してしまった。しかも、トランクス1枚の俺の股間が反応してしまい、中身が何かを暗に教えてしまった。
彼は俺の様子で、中身を察したのか、「あ・・・。俺、来ない方が良かったね・・・。」と気まずそうな表情をして部屋を出て行った。俺は何も言い返せずに部屋に1人残された。
当時の俺は、そこまで、友人同士で自らの『性』を大ぴらにする性格でもなかったので、初対面で『エロ本だよ!一緒に見る?』なんて言えなかった。
1人になり、自己嫌悪に陥ったが、気持ちと裏腹に俺のチンポはビンビン。気持ちを切り替えて、トランクスを脱ぎ全裸になると、袋の中のエロ本を取り出した。
コソコソせずに大ぴらにエロ本を見るなんて夢のようだ。中身は『白人女モノ』、もちろん裏では無いが、当時はまだ、無修正の女のアソコを見たことも無く、『黒塗り』で充分に興奮した。(笑)
興奮しながら全裸でベッドに横たわり、震える手で初夜を済ませた。
翌朝、食堂で朝飯を食ってると、彼が俺の前に座った。憎らしいほどの爽やかな笑顔で「おはよう!」。俺は昨日のことがあり、少し気まずいのに、忘れたかのように接してきたので、少し驚いて慌てて「おはよう!」と返した。
しかし、彼は急にイタズラっ子のような表情になり「昨日、何回した?」と聞いてきた。俺は吹き出しそうになったが、「何のことだよ!」ととぼけた。彼は「エロ本だったんだろ?あの中身?」とさらに追及するので、俺は周りを見渡しながら「クラスのヤツに言うなよ!」と小声で白状した。
彼はニヤニヤしながら、指を立て、2本?3本?って聞いてきたので、俺は本当は3回だったが、見栄をはって、2本で返した。(笑)
その後は、エロ本を交換したりする仲にはなったが、センズリの見せ合いなんて夢のような行為に発展することもなく、翌春に互いの志望大学に合格すると、その後は一度も会うことは無かった。
今なら、スマホで簡単に連絡先は交換できるんだけど、当時はできなかったし、若い頃は、新しい環境で、次々に新しい知り合いが増えていく。刹那の出会いは忘れ去られていく・・・。
もしも、あの時、あの袋の中身がゲイ向けのエロ本で、彼が、見てしまったら・・・。
もしかしたら、別の展開になっていたかも・・・。