ゲイビデオへの出演 2
ゲイビデオの撮影は三週間後、都内のホテルで行われた。開始時間までラウンジで待機しながら紅茶を飲む。この紅茶の色、砂漠の夕暮れみたいだなあ、とどうでもいい妄想をするものの、別に砂漠に行ったことはない。妄想を止めてしまうと、緊張が走ってくる。
(ウリセンでセックスには慣れていると思うけど……人前だとどんな感じになるんだろう? ちゃんと勃つのかな。心配だ……)
心配していると部屋番号がメールで届いたので、エレベーターへ乗って部屋まで向かう。
ノックをすると、イカニモ系な短髪ヒゲマッチョな男性が出てきた。どうやらこの人がメーカーの方らしい。
部屋の中には照明器具が置いてあり、いかにも撮影といった感じだ。上半身裸でうろうろしている人は、おそらく相手のタチ役だろう。他にはカメラを確認しているカメラマンと、椅子に座っているだけでオーラを放っている男性がいる。
……カッコいい。この子はきっと、俺が来る前に撮影していた子だろう。ジャニ系とホスト系の中間と言ったところで、本当に綺麗な顔立ちをしている。こんな芸能人みたいな子がAVに出てケツ掘られてアンアン言っちゃうとは。というか、こんなイケてないとAVって出られないのだろうか? だとしたら俺は出てもいいのだろうか。不安が募る。
「アツヤくん、まずは浣腸してきてくれるかな」
メーカーの方が浣腸を渡してくる。そうか。ケツを使って写すからには浣腸も使わなきゃだろう。ウリセンでは使ったことがないだけに新鮮な体験だ。
それから浣腸をしてシャワーを浴びて、撮影が始まることになった。さっきのイケメンはギャラを貰って帰ったので、部屋には俺とタチ役のゴーグルマン(撮影が開始すると水中メガネを装着した)とカメラマンと、メーカーの人の4人になった。
ベッドの上でキスから始まって、ゆっくりと服を脱がして乳首をいじってくる。
緊張のせいか、まったく気持ちよくない。ある程度服を脱がしたところで、「カット」と横から声が入る。
「アツヤくん、もうちょっと大きい声出して」
「あ、ハイ。スミマセン……」
AVでも演技指導が入るのか……面白い。でも大変そうだなあ。カットされると興奮も覚めるし……
とりあえず俺は、こうしたらエロくなるだろうという声と表情で頑張った。
頑張ってフェラをしていると、カメラの反対を向いてしまい、さりげなくゴーグルマンが頭を押して顔をカメラの方に向けるなど、ゴーグルマンの配慮を感じる箇所もあった。
挿入シーンは痛かったが、体位を変えた時にカットが入ったのと、ゴーグルマンが急いでくれたお陰でちゃんと最後まで終えることができた。
最後はゴーグルマンにしごいてもらい、イきそうになる。
「あっ、あぁ、イく、イく、イく……っ、イく……っ!」
精一杯の演技で俺はイった。この日のために一週間近くオナニーを我慢したのだが、勢いがなくドロドロとした精液が出てきてあまり迫力のないフィニッシュとなった。
最後は、「肩で息して!」という演技指導のもと、疲れた風に呼吸をしながら恍惚の表情で終わった。
(楽しかったけど、ウリセンとは全然違うなあ。本当に作品を作ってるって感じ)
シャワーを浴びながらさっきまでの出来事を振り返る。
風呂から出ると次の撮影の子が到着していて、また格好いい子だった。さっきとは違う短髪のガタイ系で、ゲイが好きそうなノンケだ。
俺と目が合うと軽く会釈をしてくれたが、何故か俺は落ち込んでくる。
それから契約書にサインをして、その場でギャラを貰う。6万円だった。
単純に時間で割ればウリセンよりも普通のバイトよりもずっと高いが、他のAVと比較すると全くわからない。6という中途半端な数字も謎だった。
数ヶ月後、DVDはリリースされ、自費で買ってみた。うまく編集されていて、ちゃんと気持ちよさそうにセックスしているように見える。
動いている自分、しかもセックスをしている姿は何とも不思議だった。
誰かがコレでヌいているのだろうか。だとしたら凄く嬉しい。自分も誰かの性的対象になるんだよ、と認めてもらえたみたいで、形になってよかったなと思う。その後も何度か出演したが出るたびにいろんな発見があって面白かった。
こんな思いでAVに出る人は他にいるのだろうか。あまりいない気がするし、軽々しく出演することを快く思わない人もいるだろう。性的に認められるということは、見下されることでもある。
とはいえ、俺は体を売らないとわからない答えがいっぱいあったから、後悔はしていない。