(自分のウリねぇ……)
そういえば、そこまで考えたことはなかった。
特別かっこいいわけでもないし、ガタイがいいわけでもない。ノンケというブランドもないし、プレイが特別うまいわけでもない。もちろん若さで勝負もできない。
(そう考えると……何もないじゃん、俺!)
実生活なら普通の子、で済まされるが、ウリセンでは自分をアピールする何かがないと埋もれてしまう。
自分って何なんだろう。
まさか、こんな深いところまで潜って自分を見つめなくてはいけないなんて。もちろん自分とは何かという問いは、10代の頃、大人になるために何度も向き合って、それなりに識別して答えも出した。誰しも通過する道だろう。しかし今回は売り物として、もっと明確な答えがなくてはいけない。
(そもそも大して売れたいって思ってないからなあ。お金に困ってるわけじゃないし、沢山お金がほしいわけでもないし……ハングリー精神すらないもんな)
結局、答えは出ない。そんなこと考えている暇があったら、本業の仕事を頑張るべきだとも思っていたからだ。
(なーんか辞めちゃったほうがいいのかもしんないなー)
マネージャーの話も虚しく、俺のやる気はまったく出ないのだった。
一週間後、懲りずに待機所に行くことにした。でも、これでまた一日指名が無かったら、もう待機もウリセンも辞めようと決めた。そこまでして居座る場所ではないだろう。
そんな時、呼び出しがかかる。
「アツヤ、ちょっと」
マネージャーが手招きをして、小声で話しかけてくる。
「あのさ、タクマのお客さんから連絡来てさ。タクマがNGっていうから、代わりにアツヤが行ってくんないかな」
「いいですけど……タクマ君のお客さんなのに俺でいいんですか?」
ナンバーワンのタクマ君の客が、ビリの俺にあてがわれるって、どういうことだろう。
「オッケーオッケー。この人しつこくて、タクマ困ってるみたいでさ。いるんだよね、本気になりすぎちゃう人。んで、お客さんにタクマはいませんって伝えたら、誰でもいいから早く来いって言うからさ」
だ、誰でもいいって……ショックな気もしつつ、指名が無いよりはマシだった。