心機一転、新しい店に入った……と思いきや、なんと指名は前の店より減ってしまった。原因はいろいろ考えられるが、前の店よりボーイの人数が断然多いからだろう。しかも新人が一度に大量に入ったため、完全に俺は埋もれていた。
さらに、店の待機所にいる子に優先して客をあてがうため、自宅で働いている俺に客を回してもらうことはほとんどなかった。
(うーん、店を変われば新しい客が来るかと思いきや……これじゃ渡り鳥っつーか閑古鳥じゃん……)
お金の問題よりも、自分を認めてもらえないみたいで悔しい気持ちになってくる。自分はもう、性的に価値がないのだと言われているようだ。
とりあえず、解決策のひとつとして、週末だけ待機所に顔を出すことにした。
(とはいうものの……何だか居づらいなあ)
寝ていたりゲームをしたり、何をしててもいいし、新宿をフラついていてもいい。しかし、結局は目的の「指名」がなければ、ここにいるのがいたたまれなくなってくる。
ヒマそうにしていると、2人のボーイが俺に話しかけてくる。
「えー、今いくつなんですかー?」
2人は俺よりもずっと若そうだ。ひとりはビジュアル系で髪の毛が長めで、もうひとりはお兄系で色黒。どっちの子ももちろんイケている。
「あ、28歳です」
俺は思わず実年齢を言ってしまうと、ふたりは一斉に笑い出す。
「えーっ、オバさーん!」
……オバさん? 一瞬、何を言われたのかがわからない。
「28でボーイって、何かスゴーい。ずーっといるけど、ヒマなんですねー」
そう言ってふたりはまた笑う。しばらく適当に話していると、つまらないのか2人はどこかへ行ってしまった。
(……にしても、オバさんって。おっさんならまだしも、いかにもオカマの世界の裏側って感じ。こういう子ってやっぱいるんだなあ)
初対面でバカにされたのは正直傷ついた。ヒマなのがバレたのも恥ずかしい。
でも、年齢に関してはショックよりも驚きが大きい。この子たちは、若いほど良いという価値観をダイレクトに出してくる。俺からしてみれば、10代の後半から20代の前半という、一番仕事で成長できる時期にウリセンをしてしまうのは、若さの無駄遣いという気になり、心配になってしまう。
……って、こんなこと考えちゃうのがオバさんなのかもしんないけど。