ウリセンのバイトを初めて約10ヶ月。どんどん指名が減っていくのを感じてきた。週に数回あればいい指名は、ひどい時だと隔週に一度という時もあった。
どんどん人が辞めて、新しい子が入ってくるから、みんな新しい方へ向かうのだろう。他の子はどうなんだろうか。店を変えてみたりするのだろうか。
「お店変えようかと考えているんですよね。ずっと同じところだと指名減っちゃうみたいで」
一度だけ、お客様にそう漏らしたことがある。
「あー、渡り鳥ってヤツね」
的確な表現だな、と感心してしまった。やっぱりウリセンの子は、自分が飽きられたと感じたら、店を渡り歩いて新鮮さを取り戻そうとするのだろう。名前を変えて再出発する子もいれば、リピーターを引き連れてご新規さんを新しい店で獲得する子もいる。
とはいえ、お金が第一の目的ではないだけに、指名が無いなら無いで、このままフェードアウトしていってもいいかな、という気になる。ここのところ、本業のライターで仕事を立て続けに頂けるようになり、ウリセンに時間が割かれるのが煩わしい時もあった。
(でも、何か悔しいんだよな。辞めちゃうのも)
誰かが高い金で買ってくれる、という部分で承認欲求が満たされるので、それがなくなったら自分の価値もなくなってしまいそうで、怖い。
その日のお客様は個室での2時間コースだった。
たった2時間とはいえ、往復の電車の時間や後片付けを含めると4時間は使ってしまう。平日の午後の4時間は結構な時間で、それだけあればかなり仕事は進むし、取引先から連絡があってもすぐに対応できる。
(やっぱり、本業に差し支えるくらいなら辞めるべきかな。つっても、そんな指名入らないから、たまにだったらいいのかな……)
もうすぐ個室に到着、という時点で店から電話が入る。
「今日のお客さんさ、一時間ほど遅刻するって。いま個室開いてるから、そこで待機してくれるかな」
お客様の遅刻は結構多い。そうなると、ますます時間が割かれていく。
一時間だけ眠るわけにもいかず、もちろん仕事もできず、適当にテレビを見ながら時間を潰す。
ぴったり一時間後、インターホンが鳴った。